はじめに 『和歌』について
和歌 わか 倭歌とも書き、別に国歌と称されることもある。からうた(唐歌・漢詩)に対するやまとうた(日本の歌)の意であるが、長歌・短歌・旋頭歌などの定型の歌を指し、歌謡・連歌・俳諧・近代詩などは含まれない。用例としては、本居宣長が『石上私淑言』で、「古事記、日本紀には見えず、ただ歌とのみあるなり」といい、万葉集が初見であると指摘しているが、その万葉集には、「倭歌」が一例(巻五)あるほかは、「和歌」と表記するものはすべて「和(こた)ふる歌」と考えられている。漢詩文隆盛期を経て古今集に至ると、漢詩を念頭に置いての「やまとうたは人の心を種としてよろづの言の葉とぞなりける」以下その仮名序に見られるように、やまとうた、すなわち和歌に対するわが国固有の文芸としての自覚が生まれた。しかし、すでに短歌以外の歌体が衰えを見せており、また、一方に漢詩を意識するということも次第になくなり、和歌は短歌と同義に用いられるようになった。(全文)
参考文献 和歌文学辞典 株式会社桜楓社 昭和五七年五月二五日 一刷発行