「又、会ふぜ。きっと会ふ。滝の下で」
輪廻と転生の不可思議な枠組み
神秘に包まれたカルマの法則
人々の過ちと悔恨とが
新たな生命の萌芽となる謎
誰ひとり逃れることができない
生と死を繰り返す魂の遍歴
それはいったい何者が
人に何を学ばせようとしているのか
『何か決定的なもの それが何だかは分からない』
主人公は何かが訪れることを待ち望んでいる
それはおそらく 自らの力を試す試練を
求めていることに等しい
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この作家は何が訪れることを待ち望んだのだろうか
敗戦 妹の死 失った恋人 宿命の予感
そして、訪れた時代の潮流は
この作家と戦後社会との溝を深めてしまう
喧噪を極める社会復興の有り様と幻滅
羞恥心を失った破廉恥な物欲と精神の欠如
彼は決意したに相違ない
日本人として生まれた自分は
日本人として恥じることなく
日本人として死ぬ
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やがて主人公に訪れる破局の数々
全身に針を打ち込まれるような衝撃
作家は分身である主人公に
夭折への道を歩ませてしまう
『何か決定的なもの それが何だかは分からない』
自我への目覚め 異性への憧憬
既存のものへの反抗 しかし
自由を手にするものに求められる
あらゆる義務を背負うことになる
「又、会ふぜ。きっと会ふ。滝の下で」
おそらく「何か決定的なこと」
それが訪れることによって
人は自らを再生するのかもしれない
***三島由紀夫氏に捧ぐ***
はてしない時空をめぐる夢の跡が 静かに眠る豊穣の海