『夢日記』

「又、会ふぜ。きっと会ふ。滝の下で」


輪廻と転生の不可思議な枠組み
神秘に包まれたカルマの法則
人々の過ちと悔恨とが
新たな生命の萌芽となる謎

誰ひとり逃れることができない
生と死を繰り返す魂の遍歴
それはいったい何者が
人に何を学ばせようとしているのか

『何か決定的なもの それが何だかは分からない』

主人公は何かが訪れることを待ち望んでいる
それはおそらく 自らの力を試す試練を
求めていることに等しい

************************

この作家は何が訪れることを待ち望んだのだろうか
敗戦  妹の死  失った恋人 宿命の予感
そして、訪れた時代の潮流は
この作家と戦後社会との溝を深めてしまう

喧噪を極める社会復興の有り様と幻滅
羞恥心を失った破廉恥な物欲と精神の欠如

彼は決意したに相違ない
日本人として生まれた自分は
日本人として恥じることなく
日本人として死ぬ

************************

やがて主人公に訪れる破局の数々
全身に針を打ち込まれるような衝撃
作家は分身である主人公に
夭折への道を歩ませてしまう

『何か決定的なもの それが何だかは分からない』

自我への目覚め 異性への憧憬
既存のものへの反抗 しかし
自由を手にするものに求められる
あらゆる義務を背負うことになる

「又、会ふぜ。きっと会ふ。滝の下で」
おそらく「何か決定的なこと」
それが訪れることによって
人は自らを再生するのかもしれない

***三島由紀夫氏に捧ぐ***

はてしない時空をめぐる夢の跡が  静かに眠る豊穣の海