春の訪れとともに
西の夜空に消えてゆく
オリオンの星座
それは詩歌となり楽曲となり
人々の心に刻まれてきた
巨人の輪郭を偲ばせ
左右の両肩に位置する
ベラトリクスと赤色のべテルギウス
左右の両膝に位置する
青色のリゲルとサイフ
鮮やかな直線を描き
三ツ星のベルトを構成する
アルニタク
アルニラム
ミンタカ
漆黒の夜空にちりばめられた
赤い巨星と青い宝石の数々
その星々の連なりを
若くして夭折した
オリオンの面影に投影したのか
オリオンの恋人アルテミスが
今夜も星空を見上げる
冷たく凍りついた夜空
渇ききった心に染み込む
輝いていたあの頃
ふたりを引き合わせた力が
なぜふたりを引き裂いたのか
神々にも訪れる辛い試練
その運命を支配する
女神たちの戯れ
作りごとなのか史実なのか
解き明かすことのできない
オリオンの神話
その中に普遍化される
悲劇の厳粛な形式
悲しみが輝きに変わり
記憶が神聖化されてゆく
崇高な感情が芽生えて
彼女はやがて気づきはじめる
新しい力が生まれてくることを
あの人とただ逢ふために時を待つ 夜空に光る星のかたちで