あの廃墟のような建物と
朗らかだった少女の思い出は
彷徨に満ちた青春の記憶として
今も鮮明に残っている
福岡空港の脇道を走り続け
市街地を通り抜けて
坂道を下り始めると
廃墟のような建物が見えてくる
それはひと月かふた月の
短い倉庫作業の仕事だった
若いバイト仲間に囲まれながら
倉庫で働いていた真夏の日々
東京を捨てて僕は旅立った
何もかもが下らない欺瞞だった
心残りは自分を心配する
両親の失望と哀しみだけだった
バイト先で出会ったひとりの少女
冷房もない扇風機しかないような
暗く殺風景な倉庫の中で
明るく働いていた
なぜだろう
彼女は僕を気にしていた
僕が東京から来たと話したせいだろうか
訳ありと感じていたからだろうか
あれから40年近くも経つが
あの時 東京へ行きたいと
願っていた君は
この都会に出で行ったのだろうか
もう20年近くも経つだろうか
メールサイトで知り合った女性
名前も聞くことはなく
いつのまにか離れていった
以前、福岡に住んでいたこと
バイト先への通勤の途中で見た
奇妙な建物の話しをすると
自分はその近所に住んでいて
「あれは炭鉱の跡地」って教えてくれた
あの頃
博多で暮らしていると言っていた君は
今もまだあの辺りに
住んでいるのだろうか
それから5年後
僕は再びあの跡地を訪れた
周囲にはなにもない広い敷地の中に
ポツンとあの廃墟だけが毅然として立っていた
あの夏の陽射しの中に
僕は何を残してきたのだろう
あの夏の思い出の日々に
僕は何をすればよかったのだろう
あの廃墟のような建物と
朗らかだった少女の思い出は
彷徨に満ちた青春の記憶として
今も鮮明に残っている
過ちと彷徨う日々のあの頃を なぜ思い出すのかわからないまま