恵むる月

月はその軌道と
地平からの角度の変化
そして光の錯乱により
黒・赤・黄・白・青の色彩へ
その表象が普遍化する

黒い月
新月の夜  その時期は
大地が闇に包まれ
地上を照らす光はない
神々が現れる前の世界
月はその姿を隠し
星々のわずかな輝きでは
各々の容すら見分けられない
森や海、河や山も
輝くものを求めている
自然の営みが力を失い
時が静止した頻闇の夜

赤い月
沈みゆく太陽を追うように
東の空から赤い月が昇る
別れを告げる太陽を惜しむ
泣きはらしたような瞳
やがて地平の彼方より
次第に色濃く
その輪郭を映しだす
ビルのシルエット
夕映えの空に浮かぶ
山並みの頂きも
西の彼方に薄れてゆく

黄色い月
闇がすべてを支配するその空に
月輪は静かに昇る
悲しみの瞳は涙で清められ
次第に落ち着きを取り戻す
果てしない海原を泳ぐ魚たちは
潮風がうねる波間から
森の奥で羽根を休める鳥たちは
枝木で隠れた隙間から
喧騒な都会のビルを漂う人々は
歩道に立ち並ぶ街灯の谷間から
高く昇りゆく光を見上げる

白い月
あまりにも高く遠く昇り詰めた
その代償として月は
自らの宿命 孤独を受け入れる
彼女をおいてもう他に
周囲を照らせるものはない
地上に降りそそぐ唯一の光
陽射しの中で暮らすものは眠り
夜を住みかにするものは彷徨ふ
光をそそぎ続ける瞳は
最後が訪れるその時を
静かに待ち続ける

青い月
陽射しが空に行き渡る黎明の朝
夜明けの光が闇を駆逐する
澄みきった青空が広がり
追い立てられるように
月は西の空に消え入り
彼女を追うものはいない
色どりを変え容を損なっても
再び彼女は甦る
自然の恵みを受けるものすべて
彼女があの輝きを取り戻すことを信じてやむことがない

輝きもいつかは消えむと知る月の なぜ惜しむなく光恵むる