あの青空と夏の記憶の

西欧の文化が人々に受け入れられ
人々の暮らしが次第に豊かなものに
街々が都会的な装いで華やいだものに
この国が生まれ変わり始めた時代

少女から大人の女性に変貌をとげ
自らの美しさを自覚し
自らの人生を歩み始める女性たちが
いずれ廃墟となる街々の背景を彩る

やがて世の中に訪れる大いなる事変 
政治・経済・軍事の均衡が崩れ
大国がもたらす紛争と破壊に突き進む世界
その潮流に巻き込まれてゆくこの国

争うことを厭わない異国の神々
争うことを好まないこの国の神々

海を隔てながら地鳴りのように押し寄せる
世界の変動と紛争の兆しに 彼女は知る
誰ひとり止める力を持たないことを
誰ひとり変えることはできないことを

彼女は心を痛めて祈る
兵役に向かう兄 弟の安否を
そして密かに思いを寄せる
愛しい人の無事な帰還を

志願しあるいは徴兵される兵士
大陸に 海原に 消えてゆく若い生命
空襲と核兵器により廃墟となる街々
犠牲になる無辜の人々

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堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、
もって万世のために太平を開かんと欲す・・・

静まり返った夏の日の午後に
突然訪れる敗戦の知らせ
人々の嘆きと悲しみが満ち溢れ
そして彼女は目の当りにする

荒廃する人々の暮らしと秩序
自信を失い彷徨う人々
責任を追及される軍人
その彼らを糾弾する人々

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彼女は待ち続ける
兄や弟と会えることを
愛しい人が戻ってくることを
そして彼女は信じる

世界の激変に翻弄されたこの国が
再び 生まれ変わることを・・・

ひとひらの詩となりぬれば 音のないあの青空と夏の記憶の